学会紹介

日本トレーニング科学会とは

 

日本トレーニング科学会は、1988年10月にトレーニング科学研究会として発足し、1989年1月の第1回研究会大会を皮切りに、毎年、研究会集会(研究会大会やシンポジウム、カンファレンス)を定期的に開催するとともに、機関誌「トレーニング科学」や関連書籍の編集をおこなっています。研究会では、健康・体力づくりの運動/スポーツからエリート競技スポーツに至るあらゆるスポーツや運動の実施現場で、トレーニングに関する情報の集積と、これについての指導者や研究者など専門家の意見交換の場を共有することを目指して活動を行っています。トレーニングやコーチングに関する実践報告、アイデア、意見あるいはトピックスなど、実際のコーチングに携わっている方々からの発想、練習計画や成果の成功例、失敗例など、実践現場からの貴重な情報を大切にしていきたいと考えています。
 

会長ご挨拶

 

 

ご挨拶

日本トレーニング科学会会長 須永美歌子(日本体育大学)

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会において、「多様性と調和」がビジョンとして掲げられ、世界中の人々が多様性と調和の重要性を改めて認識し、共生社会をはぐくむ契機となりました。そして、いま誰もがスポーツに取り組み、試合に参加し、記録に挑戦できる環境が整えられつつあります。しかしながら、トレーニング科学分野においては、若年男性アスリートを対象とした研究が中心に行われており、女性アスリートやパラアスリートを対象とした研究はまだまだ少ないというのが現状です。これまではあまり着目されてこなかった様々な身体特性をもった対象者に関する知見は、誰もが安全で効率的なトレーニングを行うためにも重要であることから、今後はトレーニング科学研究分野におけるダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みの推進を図りたいと考えています。

スポーツ現場でコーチやトレーナーが感じている「違和感」や「疑問」などに研究者が耳を傾けることによって、現場のニーズに応じた知見が創出されることが期待されます。日本トレーニング科学会は、まさしく立場や分野の隔たりなく議論できる場であるといえます。これからも歴代会長を中心とする諸先輩方のご尽力によって築きあげてこられた“スポーツ現場と研究の融合の場”を大切にしながら、さらなる発展をめざしてまいります。

日本トレーニング科学会のあゆみ

 

~トレーニングを科学する~国立大学法人鹿屋体育大学 福永哲夫

 

1. トレーニングカンファレンスとトレーニング科学研究会

1988年10月にトレーニング科学研究会が発足し、1989年1月16日に第1回トレーニング科学研究会が東京大学教養学部で開催された。1988年12月9日の朝日新聞と1989年1月5日の読売新聞にトレーニング科学研究会発足に関する記事が大きく取り扱われていた。「長老支配」や「経験主義」のスポーツ界に一石を投じて、スポーツ現場に幅広いスポーツ科学を導入されることになった、との趣旨の記事であった。
これよりさかのぼること約5年、「トレーニングカンファレンス」と称して、ほぼ毎月土曜日の夕方に、選手、コーチ、学校の先生や研究を志している人たち等が集まって、種々雑多なテーマについてビールを飲みながら話し合う会があった。せいぜい10~20名の集まりではあったがそれなりに苦労話が聞くことが出来て、私のようにトレーニングの現場に直接携わっていないものにとっては非常に興味ある会であった。この議論の中から研究テーマも浮かぶことが幾たびかあった。そのひとつにスポーツ動作パワー測定のプロジェクトがあり、現在でもその研究は続けられている。
定期的なこのビール会をもっと全国的な規模にしてはどうかと言い出したのが安部孝氏(都立大学)であった。面倒な事はやりたくなかったので、最初は気乗りしなかったが「安部さんがやってくれるならいいか」との軽い気持ちで「面倒な事がおこればいつでも止めよう」との前提のもとに研究会がスタートした。
「およびごし」の私とは対照的に、30歳そこそこのメンバーの人々は精力的に研究会を盛り上げていった。

2. トレーニング科学研究会の趣旨

トレーニング科学研究会の趣旨は「健康・体力つくりスポーツから競技スポーツに至るあらゆるスポーツ実施の現場でのトレーニング内容及びその効果に関する具体例の集積と、それらについてのそれぞれの専門家の意見の交換の場の提供であり、そこから生まれてくるであろう新しいトレーニング方法を開発していくところにある」(トレーニング科学、vol1、no1、pp1、1989)とし、同誌の編集後記(記:船渡和男)には「トレーニングやコーチングに関する実践報告、アイデア、意見あるいはトピックスなど実際のコーチングに携わっている人々からの発想、練習計画や成果の成功例、失敗例などを論文形態にとらわらず寄稿していただきたい」と記されている。

3. 日本トレーニング科学研究会の活動

研究会の活動として、年次大会(1年1回)、研究会誌発行(年間2回)、トレーニング科学に関する単行本の出版を実施してきた。これらの活動を継続してきたことは関係者の大変な努力の結果によるものである。トレーニング科学に情熱を持つ多くの人たちの努力がこの業績を生み出していると断言できる。
一方で、トレーニング科学研究会の本来の目的が「スポーツの現場で実施されているトレーニングの具体例などを中心にトレーニングに関する色々な考え方や試行錯誤の記録を集積することである」にもかかわらず、これまでの研究会誌「トレーニング科学」の投稿論文が必ずしもそのような内容のものでないことは、トレーニング研究会の当初に掲げた目的がまだまだ達成されているとは言えない。日本トレーニング科学研究会や「トレーニング科学」が他の多くのスポーツ科学に関する学会や学術誌と異なる点は「スポーツ現場の記録を集積し新しいトレーニング理論や身体運動を開発することにある」であり、今後いっそうその方向での世界で唯一の学会及び研究会誌としての充実を進めたい。

トレーニング科学研究会から日本トレーニング科学会へ

 

国立大学法人鹿屋体育大学 安部孝

 

1. 日本学術会議に登録された「研究会」という名称の学術団体

日本トレーニング科学会の前身である「トレーニング科学研究会」が発足した1988年当時の資料を調べてみると、本会の発足準備の過程で名称が短期間に何度か変更されている。最初は「スポーツ・トレーニング研究会」、次いでスポーツという名称を除いた「トレーニング研究会」、そして最終的に科学という名称を追加した「トレーニング科学研究会」である。本会が「学会」という名称ではなく、「研究会」としてスタートした理由は、現場の指導者やコーチの方々に数多く参加していただきたいという思いからである。本会が企画する年次大会やカンファレンスなど、その内容が現場の指導者やコーチの方々にとって興味深く、参加しやすい会にするよう努力することは当然である。しかし、企画した本会の名称を見聞きしただけで、「学会では敷居が高くて参加しにくい」と頭から拒否されるようなことがないようにしたい、という思いが込められた結果である。
ところで、本会は発足後、数年後には日本学術会議に加盟した。この日本学術会議に加盟する学術団体は、そのほとんどが「学会」や「協会」という名称で登録されている。当時、「研究会」という名称で登録された学術団体は極めてめずらしかった。

2. 研究会から学会への名称変更

現在、日本学術会議に加入する協力学術研究団体(約1700)の中で、「研究会」という名称は約40を数える。本会もそのひとつであったが、2005年1月1日をもって「トレーニング科学研究会」から「日本トレーニング科学会」へと会の名称を変更した。本会の名称変更が議論され、最終決定されたのは、2004年11月27日に開催された運営委員会(東京女子体育大学:第17回トレーニング科学研究会)であった。委員からは、発足当時の意志を継続して「このまま研究会でいこう」という意見と、「そろそろ学会という名称にしては」という意見であった。会長として委員会の司会をしていた私は、どちらの意見もそれぞれ重要で判断がつかず、会員の方々のためにはどちらの選択肢が良いのか迷っていた。その議論の中で、当時、運営委員だった荻田太委員(現会長、鹿屋体育大学)から次のような話題が提供された。それは、ある大学で博士課程の院生が学位申請を行った際、主論文として本会の機関誌『トレーニング科学』に掲載された原著論文を記載した。大学側は審査の一環として、主論文が掲載された機関誌の発行所(学術団体名)を尋ね、その名称が学会ではなく、研究会であったため、主論文として認めてくれなかった、という嘘のような実際の話しである。世の中には「○○研究会」という団体がたくさんあるのは事実で、それらの団体が発行した機関誌や報告書の論文が必ずしも全て高い評価を得るような論文だけではないことも事実である。しかし、当時の「トレーニング科学研究会」は日本学術会議に加盟する学術団体であり、機関誌の査読においても優れた国際雑誌や国内の主要学会が発行する機関誌の査読依頼を受ける査読者によって評価されていた。でも、そんなことを言っても、学会の名称のみで不利益を受ける若手研究者が今後も続く可能性があるのであれば、その点を考慮して考える必要があるという雰囲気になった。アドバイザーとして委員会に出席されていた福永哲夫先生(初代会長、早稲田大学)の一言「良いんじゃない」が決定打となり、翌日の総会に「名称変更」を提案することが決定した。

3. 「トレーニング」ではなく、「トレーニング科学」である意味

先にもふれたが、本会は発足した当初、会の名称に『科学』という語句を追加した。科学という語句が追加された背景は、初代会長の福永哲夫先生(早稲田大学)や発起人の方々の思いが込められた結果である。この点に関して、アドバイザーとして本会の発展にご尽力いただいた深代千之先生(東京大学)が大変興味深い文章(*)を書かれている。是非、参考にしながら本会が学会として益々発展していくことを願っている。

 

 

近年の学会賞等

2018年度

 

<日本トレーニング科学賞>
石橋彩, 山辺芳, 谷中拓哉, 北村隆, 河野孝典, 石毛勇介, 髙橋英幸
スキー・コンバインドナショナルチーム選手のレースを想定した滑走運動が上腕三頭筋および大腿筋のグリコーゲン含有量に及ぼす影響
トレーニング科学, 31(1), 53-60, 2019

 

<トレーニング実験研究賞>
佐々木俊介, 結城匡啓, 吉田陽平
ハングスナッチトレーニングがバスケットボールのチェストパス動作に及ぼす効果に関するバイオメカニクス的研究
トレーニング科学, 30(4), 263-278, 2019

 

2019年度

 

<日本トレーニング科学賞>
長尾秀行, 黄忠, 窪康之, 森下義隆, 武藤雅人
国内男子トップウエイトリフティング選手を対象としたスナッチの成功要因に関するバイオメカニクス的分析
トレーニング科学, 31(2), 71-83, 2019

 

大塚光雄, 伊坂忠夫, 長野明紀, 栗原俊之, 大友智
定性的・定量的評価が可能な新しいタブレット端末用アプリケーションを活用した学習効果;ハードル走に着目して
トレーニング科学, 32(1), 19-31, 2020

 

<トレーニング実験研究賞>
佐藤伸哉, 江間諒一, 石松秀基, 吉原佳菜, 赤木亮太
8週間の高強度スクワットトレーニングが膝関節、股関節の伸展及び屈曲筋力に及ぼす影響
トレーニング科学, 32(1), 1-8, 2020

 

2020年度

 

<日本トレーニング科学賞>
砂川力也
スクワットの重量および挙上速度の違いが活動後増強に与える影響
トレーニング科学, 32(3), 97-107, 2020

 

<トレーニング実験研究賞>
犬走渚, 平野裕一, 泉重樹
力発揮の素早さが異なるレジスタンストレーニングが瞬発的力発揮特性に及ぼす影響
トレーニング科学, 32(3), 109-117, 2020

 

2021年度

 

<日本トレーニング科学賞>
砂川力也, 船渡和男
異なる速度低下率を用いたスクワット運動が各セッションの活動後増強に与える影響 ―トレーニング経過に伴う短期的検証―
トレーニング科学, 33(4), 259-271, 2022

 

<トレーニング実験研究賞>
砂川力也, 船渡和男
異なる速度低下率を用いたスクワット運動が各セッションの活動後増強に与える影響 ―トレーニング経過に伴う短期的検証―
トレーニング科学, 33(4), 259-271, 2022

 

<縦断的研究賞>
新谷昴, 土井畑知里, 杉田正明
2019世界選手権大会で優勝したトランポリン競技選手のパフォーマンス向上過程における事例研究
トレーニング科学, 34(1), 61-73, 2022

 

2022年度

 

<日本トレーニング科学賞>
中馬健太郎, 星川佳広
日本人男子中学サッカー選手対象の一時点の形態計測からMaturity offsetを推測する方法の検討
トレーニング科学, 34(3), 221-231, 2022

 

<トレーニング実験研究賞>
村川大輔, 向井遼児, 塩川勝行, 中本浩揮
サッカー選手の視点変換能力における映像を用いたサーヴェイ的視点トレーニングの有効性
トレーニング科学, 34(3), 207-219, 2022

 

<縦断的研究賞>
中馬健太郎, 星川佳広
日本人男子中学サッカー選手対象の一時点の形態計測からMaturity offsetを推測する方法の検討
トレーニング科学, 34(3), 221-231, 2022